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 疲れきった身体を引きずって部屋へと戻ってきた高耶は、
 寝床にどさっと倒れこんだ。
 けれど目だけは冴えていて、眠れそうもない。
 頭を空っぽにして、そのまま横たわっていると、
「………」
 いつの間にかに現れる。
 幻の男が、傍らに腰掛けて髪に触れてきた。
 声を聞きたいと思えば、容易に脳内で再生出来る。
(病気だ……)
 疲労で鈍る頭で思って、高耶は目を閉じた。
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 作戦は無事に終了した。
「上手くいきましたね」
 隊士達がわらわらと迎えの車両に乗り込んでいくのを横目に見ながら、宿毛からの参加組として来ていた直江が声をかけてくる。
「………」
 当然言われるであろうと思っていた言葉が中々直江からでてこなくて、高耶は思わずじっと見つめてしまった。
「何ですか?」
 作戦の下準備を任されていた直江が、ひとり乗用車で先に現場へやってきていたことを高耶は知っている。
 その車がどこかに停めてあるはずなのだ。
 当然、自分はそっちに乗って帰るつもりだったのに。
「お前も一度アジトへ寄るんだろう?」
 言外の"送れ"という意図に、直江は気付いた。
「隊内での接触は極力避けるんじゃなかったんですか」
「……蠱毒薬が効くまでは時間がかかる」
 だからなるべく同乗する人間は少なくしたいのだ。
「お前だからって訳じゃない」
 黙って高耶を見つめていた直江は、声を低くしてこう言った。
「もし同乗するというのなら、すんなり帰れるとは思わないでください」
───………」
 ばかげている、と思うのに。
 心のもう片方で、何かへの期待がはちきれそうになっている。
 やっぱり他の隊士達と一緒に帰ったほうがいいかもしれない。
 激しい葛藤のせいで、高耶は身動ぎひとつ出来なかった。

「いい加減、認めてしまいなさい」
 男は言った。
 けれど頭が朦朧としていて、まともにものが考えられない。
「あんな連中はもう必要ないでしょう」
 何を言ってるんだ?
「もう戻らなくてもいい」
 オレの居場所はあそこにしかないんだ。
「嘘吐き」
 男の仕打ちに悲鳴をあげた。
「あなたはいつもそうやって人の皮を被りたがる」
 もうやめてくれ。
「本当は邪魔でしょうがないくせに」
 有り得ない。
「言ってごらんなさい」
 何を?
「あなたが真実に欲しいモノ」
 ……………。
 執拗な男の言葉の暗示にかかったように、結局その名を口にしていた。

 急ごしらえのベッドにしては、寝心地も悪くない。
 身体は相変わらずだるかったけれど、心地のよい疲労感だった。
 遠くの方から波音が聴こえてくる。
 広大な海の遥か沖から伝わってきた波が、空気中をやはり揺らいで伝い、高耶の耳に打ち寄せる。
 音の正体は波。
 そんなことを一体どこの誰が突き止めたのだろう。
「外国人?」
「……ドイツで行われた実験がきっかけだったと思いますよ」
 高耶の大好きな周波数で、傍らの男が答える。
「その話、ききたい」
 大して興味はなかったけど、声を聞き続けたくてそう言った。

「さあ、起きてください」
 いつの間に眠ってしまったのか。
「ん……もう少し……」
 目覚めは悪いほうじゃないはずなのに、蠱毒薬を飲みすぎたせいか頭がぼんやりと重い。
「急いで戻ったほうがいいんじゃないんですか」
 枕元の携帯電話で時間を確認すると、思った以上に遅い時間だった。
「どうせもう大騒ぎになってる」
「ええ、先ほどから携帯がなりっぱなしです」
 ディスプレイには半端ない着信件数が表示されている。
 ため息が漏れた。
「なんて言い訳すりゃいいんだ」
「自業自得です」
 その他人事みたいな態度に、思わずむっとする。
「昨日のうちに帰るつもりだったのに。お前がしつこいからだろ」
「だから、すんなりとは帰れないと言ったでしょう?」
「帰れない、じゃない。帰らない、だろ。責任が他にある様に言うな」
「言い方を変えたところで同じですよ。結果はどうせ変わりません」
 語調を強める高耶に対して、男は楽しむように言葉を紡ぐ。
 そりゃあそうだろう。
 昨晩、あれだけ思うようにしたのだから、きっと気分も晴れやかだろう。
 言い敗かす気が失せて、高耶は拗ねたように唇を尖らせた。
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