「沙織さん?」
突然現れた直江に声をかけられて、沙織は内心悲鳴をあげた。
(ひいいいいいっ!名前覚えられてるし!)
「おひとりですか?」
今日は夏祭りだ。
両側に露店の並ぶ人ごみの道中に、沙織はひとりで立っていた。
「は、はい、友達が先に帰っちゃって……」
というのは嘘で、譲をみかけた気がしたから友達を放りだして追いかけてきたのだ。
結局、見失ってしまったけれど。
「え──…と」
人ごみから頭ひとつ出ている直江はきょろきょろとあたりを見回して、
「あ」
目当ての夜店でも発見したのだろうか。
(背が高いってこういうとき便利なのねー)
「よかったら、金魚すくいでもどうですか」
笑顔で誘われて、断る理由はない。
「え、ええっもちろんっ」
譲も探したいが、直江と歩くのもちょっと魅力的だと思ってしまった。
(成田くんっごめんっ)
自分の浮気心を譲に詫びて、直江の後についていこうとすると、
「あちらです」
直江は沙織を庇いながら、さりげなくエスコートしてくれた。
(くうぅ、レディになった気分!)
同級生の男子にはありえない気配りだ。
特に仰木高耶あたりは、きっと自分だけさっさと歩いていってしまうだろう。
金魚すくいの屋台が見えてきて、そこには見覚えのある顔がふたつあった。
譲と高耶だ。
「直江………と、森野?」
高耶は不思議な取り合わせに驚いているようだ。
「成田くんっ!とおまけのおーぎくん」
「なーんだよ、おまけって」
いがみ合うふたりの横で直江と譲は挨拶を交わしている。
「こんばんわ、直江さん」
「大漁ですね」
「高耶がムキになっちゃって」
譲の手には金魚の入った袋がみっつもぶらさがっていた。
「森野さん、よかったらひとつ、どう?」
「ええっいいの?」
(絶対に死なせらんないっ♪)
歓喜する沙織の様子をじっと見つめていた直江が、思いついたように言う。
「高耶さん、ちょっと話があるんですけど」
「へ?今?」
直江が意味ありげに目配せをすると、高耶ははあん、と頷いた。
「しょーがねーな、譲。戻ってこれねぇかもしんないから、わりぃけど先かえって」
「ええぇっ?高耶ってばなに、急に!」
「すみません、譲さん」
では行きましょうか、と直江は高耶を連れ去っていった。
「なんだよ~せっかくのお祭りなのに」
悲しげに眉をひそめた譲は沙織に向き直った。
「森野さん、もう帰っちゃう?よかったら一緒にまわらない?」
こくっこくっと声も出せずに沙織は頷いた。
(ナオエさんっ!おーぎくんっ!ありがとうっ!!!)
沙織にとって史上最高の夏祭りになったことはいうまでもない。
突然現れた直江に声をかけられて、沙織は内心悲鳴をあげた。
(ひいいいいいっ!名前覚えられてるし!)
「おひとりですか?」
今日は夏祭りだ。
両側に露店の並ぶ人ごみの道中に、沙織はひとりで立っていた。
「は、はい、友達が先に帰っちゃって……」
というのは嘘で、譲をみかけた気がしたから友達を放りだして追いかけてきたのだ。
結局、見失ってしまったけれど。
「え──…と」
人ごみから頭ひとつ出ている直江はきょろきょろとあたりを見回して、
「あ」
目当ての夜店でも発見したのだろうか。
(背が高いってこういうとき便利なのねー)
「よかったら、金魚すくいでもどうですか」
笑顔で誘われて、断る理由はない。
「え、ええっもちろんっ」
譲も探したいが、直江と歩くのもちょっと魅力的だと思ってしまった。
(成田くんっごめんっ)
自分の浮気心を譲に詫びて、直江の後についていこうとすると、
「あちらです」
直江は沙織を庇いながら、さりげなくエスコートしてくれた。
(くうぅ、レディになった気分!)
同級生の男子にはありえない気配りだ。
特に仰木高耶あたりは、きっと自分だけさっさと歩いていってしまうだろう。
金魚すくいの屋台が見えてきて、そこには見覚えのある顔がふたつあった。
譲と高耶だ。
「直江………と、森野?」
高耶は不思議な取り合わせに驚いているようだ。
「成田くんっ!とおまけのおーぎくん」
「なーんだよ、おまけって」
いがみ合うふたりの横で直江と譲は挨拶を交わしている。
「こんばんわ、直江さん」
「大漁ですね」
「高耶がムキになっちゃって」
譲の手には金魚の入った袋がみっつもぶらさがっていた。
「森野さん、よかったらひとつ、どう?」
「ええっいいの?」
(絶対に死なせらんないっ♪)
歓喜する沙織の様子をじっと見つめていた直江が、思いついたように言う。
「高耶さん、ちょっと話があるんですけど」
「へ?今?」
直江が意味ありげに目配せをすると、高耶ははあん、と頷いた。
「しょーがねーな、譲。戻ってこれねぇかもしんないから、わりぃけど先かえって」
「ええぇっ?高耶ってばなに、急に!」
「すみません、譲さん」
では行きましょうか、と直江は高耶を連れ去っていった。
「なんだよ~せっかくのお祭りなのに」
悲しげに眉をひそめた譲は沙織に向き直った。
「森野さん、もう帰っちゃう?よかったら一緒にまわらない?」
こくっこくっと声も出せずに沙織は頷いた。
(ナオエさんっ!おーぎくんっ!ありがとうっ!!!)
沙織にとって史上最高の夏祭りになったことはいうまでもない。
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