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『 31.放浪者 』≪≪    ≫≫『 33.破壊者 』
   
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 拷問者にも、様々なタイプがいる。
 目的のために、最適の手段を選ぶことのできる拷問のプロフェッショナル。
 目的などどうでもいい、暴力行為自体を楽しむだけの単なるサディスト。
 そして圧倒的な多数派は、自分の恨みつらみを理不尽にぶつけてきたり、上からの命令だからと中途半端な行為だけで終わってしまうアマチュアたちだ。
 草間清兵衛は、アマチュア中のアマチュアだった。
 始めてすぐに手段は目的化してしまい、今ではただ高耶を痛めつけて自身の感情を発散させるためだけに、毎日地下まで降りてきた。
 しかも他者の、死者全ての意見を代弁しているのだという確信犯的要素もそこには含まれていて、行為自体も過酷なものが多かった。
「………ッ!……アアッ!」
 拷問と言うのは本来、苦痛によって心を折り、相手に要求をのませることが目的のはずだ。
 だとしたら、自分の心はもうとっくに折れていると思う。
 自分にはもう、守るべきものがなくなってしまった。
 知っていることは全て喋ってしまえばいいし、こんな馬鹿げたことに付き合う必要もない。
 けれど"何か"が、高耶の口を開かせなかった。
 そしてきっと、その"何か"が、いつだって自分の根核を担ってきた。
 いつだって。
(さっさと捨ててしまえばいい───ッ)
「アアアアア……ッ!!」
 草間の行為が、常に思考を中断させる。
 痛みを感じると、全身の筋肉は疲れ果てていてもなお、強張ろうとするものだ。
(………アノ時みたいだ)
 まるで、もう無理だと言っているのにあの男があきらめないとき。
 最中に意識を失ってしまい、気がつくと朝だったことが何度あっただろう。
(あれは拷問の一種だったんだな)
 そう考え付いて、思わず笑ってしまった。
 とはいえ、もちろん笑い声は出ない。
 顔にだって、表情を浮かべる気力がない。
 けれど、長い時間ずっと向き合っている草間にはわかったのだろう。
「何がおかしい?」
 苛々とした口調でそう言われた。
「いったい、何がおかしい!?」
 答えないでいると、更に過酷な苦痛が与えられる。
「ウワアアアアアアッッ!!」
「変人め……ッッ!!」
 確かに、そのとおりだ。
 自分はもう、気がおかしくなっていると思う。
 なっていないというのなら、さっさとおかしくなってしまいたい。
「例え貴様が亡命を願い出よったところで、絶対に認めん……っ!」
 亡命?
 おかしな言い方だけど、そうだな、出来るものならしてみたい。
 何もかもを放り出して、さっさとこの世から、ドロップアウトしてしまいたい。
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